月刊ＷＥＢ風 ０９年１１月号
島 唄 Ⅲ
大堀敏靖
対 馬
この島は「つしま」と読むが「島」の字を使わない。
対馬海流を覚えさせられるので読み方は知っているが、
対の馬と書く。一つにつながっているが二頭の馬が駆
けているような形をしている。長崎県に属することも
意外なことである。福岡の方が近い。現に私は福岡博
多からジェット・フォイルに乗って対馬の厳原（いず
はら）港に着いた。さらに言えば韓国の方がもっと近
い。韓国までの最短距離は四九・五キロ、福岡までは
一三八キロある。島から釜山の夜景が見える。
「韓国寄り」といってもいい島であるが、古事記に
はイザナギ、イザナミの「神生み国生み」の場面に淡
路島、佐渡島、隠岐、壱岐の島々とともに神の命を頂
いた島として「津嶋」の名が出てくる。これは古代か
ら明らかに日本の島として認識されていたわけである。
沖縄本島、佐渡島、奄美大島についでわが国四番目の
広さを持つ。
しかし、この島を訪れるなどとは夢にも思わなかっ
た。大した観光資源もない。知人がいるわけでもない。
私には馴染みのない島で、意識に上ることもなかった。
しかし、たまたまある雑誌に掲載された対馬在住のＹ
さんという女性のせつせつと対馬の驚くべき現状を訴
えるレポートに「行ってみたい」という気持ちになっ
た。人を動かす文章の力は侮れない。さらに言えば、
文章を通して現れる愛である。これが人を覚醒させる。
何に対する愛かと言えば、島に対する愛、愛島心であ
るが、対馬は国境の島であり、それは必然愛国心につ
ながってくる。
対馬の産業は主に漁業と林業であるが、これが振る
わない。真珠の養殖が盛んであったが、「世界の女性
の首を真珠で飾る」と言った御木本幸吉翁の三重の英
虞湾ほどではない。国内の最先端真珠養殖技術より十
五年遅れていると言われ、競争力も後継者も失いつつ
ある。林業も杉や檜を植林しているが、若い後継者が
いないうえ、人件費や内地への輸送費を考えると採算
が合わない。
島民人口は減少の一途をたどっている。かつて（昭
和三、四十年代）は七万人の島民がいた。しかし、そ
の後特に若者の島流出が激しく、平成十九年には三万
八千百九十七人、毎年五百人ずつ減りつつあったが、
平成二十年には一気に千人減って三万七千人になり、
最新の情報（平成二一年十月）では三万六千二百二十
人である。単純計算をすれば平成五七年（二〇四六）
島の人口はゼロになり、無人島になる。高齢化も進ん
でおり、六十五歳以上の老人の比率は全国平均の十七
％をかなり上回る二二％である。高校はあるが大学は
ないため若者は島を出て、そのまま内地に就職して島
に帰ってこない。それで老人ばかりが増える。産業は
ますます振るわない。観光はというと、神島と同じく
これといったものはない。歴史の好きな人間か、釣り
客しかこない。博多から高速艇のジェット・フォイル
でも二時間近くかかり、料金は往復一万五千円である
それだけの時間と金をかけてでも行きたい島かという
とそんな人は私のような特殊な人間くらいである。対
馬に熱い目を向ける人など周りにはいない。
ところが、こういう島に熱い視線を注ぐエイリアン
がいたのである。それは先にも書いた内地より近い大
韓民国人である。もともと対馬は韓国との貿易で成り
立ってきた。朝鮮通信使もやってきた友好の歴史もあ
る。対馬市は産業建て直しに韓国人観光客の誘致を思
いつき、積極的に進めてきた。平成十年には年間四百
五十人しかこなかった韓国人観光客が、十七年には四
千二百人、十九年には一挙に増えて六万五千人、二十
年は七万八千人と増え続け、再来年までには十万人を
めざしているという。ノービザ、ジェット・フォイル
で釜山から一時間、しかもどこからか援助が出て、千
円くらいで来られる。博多からだと倍の時間がかかり、
その八倍の費用がかかるのにである。島の人口の倍の
エイリアンが対馬にやってくる。
そうやって対馬にやってくる人々がマナーの正しい
紳士淑女なら歓迎もできよう。しかるに彼らは、もち
ろん全てではなかろうが、狼藉に近いことをやる。観
光客の三割は釣り客であるが、外国人には禁じられて
いる撒き餌をやる。餌を撒いて魚をおびき寄せ、たく
さん釣ろうとする。そのため漁場が荒れ放題になる。
アワビ、サザエの密猟をやる。「プロ釣り客」が大量
に魚を持ち帰るため地元漁業は深刻なダメージを受け
ている。タクシーに乗っても降りるときお金を払わず
逃げていく。払ったと思ったら五百円玉そっくりの五
百ウォン（十分の一の価値）を混ぜてごまかす。五・
六人でコンビニに入り、一人が支払いをしている隙に
他のものは万引きをする。女性は陳列棚の口紅をその
場で使って元に戻す。スーパーでは支払いも済ませて
いないのにバナナを食べてしまう。飲食店に入っても
キムチや韓国酒など持ち込みをして、ほとんど注文せ
ず騒いでいる。旅館では湯船の中で身体を洗い、シャ
ンプーやリンスなどの備品を持ち去ってしまう。彼ら
が使った部屋は何をするのか異様な臭いが染み付いて
後の客は使えなくなる。その他道いっぱいに広がって
歩く、神社の鳥居の上に石を投げる、など地元の人が
韓国人の悪口を言い出したら止まらない。あまりにひ
どいので言って聞かせたところ少しは改善が見られた
らしいが日本の他の都市、例えば東京などにも観光に
来る韓国人は多いはずだが、そのような乱暴狼藉の話
はあまり聞かない。そうすると何か意図的に嫌がらせ
のようにやっている節がある。
そして、さらに憂うべき深刻な事実がある。以上の
ような事情から経営の厳しくなった旅館、店、会社、
年寄りばかりになって持て余した土地などを生活に困
窮した島民が韓国資本にどんどん売却しているという
のである。つまり韓国資本が進出して対馬に来る韓国
人をターゲットに韓国料理店、釣り民宿、ホテル、バ
ス会社などを経営し始めているのだ。島の真ん中辺り
に位置する海上自衛隊対馬防備隊本部は国境の守りに
とって重要な施設であるが、ここに隣接する真珠工場
は経営危機に陥り、土地を手放さざるを得なくなった。
平成二年には天皇皇后両陛下がお出でになり、「行幸
啓記念碑」も敷地内にある工場である。工場主は決し
て韓国人には売るつもりはなかったのだが、日本人が
「名義貸し」をして韓国人の手に渡ってしまった。「
名義貸し」をした日本人は文字通り売国奴（売国土）
といっていいのだが、国防の意識も国境の守りの認識
なんてものもさらさらなくて、ただ金儲けしか頭にな
かった人間だろう。そういう人間の方が今の日本では
むしろ普通なのだろうが。
そしてさらに憂慮すべきことは、韓国が意図を持っ
て対馬を自分たちのものにしてしまおうとしているこ
とである。韓国の馬山市では「対馬の日」なるものが
平成十七年に制定された。これは島根県が同年二月に
「竹島の日」を制定したことに対抗するもののようで
あるが、ほとんど無人島である竹島のような孤島に対
抗して、わが国四番目の大島を自己の領土と言って決
議してしまうその破廉恥さに韓国民族の民度の低さを
見る。竹島の近くにある鬱陵島には「対馬島本是我國
之地」（対馬は元々韓国の地）と書かれた石碑が建っ
ている。この島には独島（竹島）博物館があり、たく
さんの家族連れが訪れ愛国心高揚のメッカとなってい
るという。訪れた韓国人家族は「ああ、対馬も元は韓
国のものだったのか。日本人は全くひどいことをする」
と認識することになるだろう。
彼らが対馬を自国領とする根拠は応永の外冦（一四
一九年）で倭寇の討伐を名目に対馬に攻め入ったとき
に李氏朝鮮で権力を握っていた太宗が「古書に対馬は
慶尚道に隷属するとある」と言ったことに基づく。こ
れは戦意高揚のために出任せに言ったことである。そ
して近年では李承晩大統領が「対馬は韓国領」と主張
した。しかしこれは根拠がないという理由でアメリカ
に一蹴されている。こういう出任せのいい加減な歴史
を持ち出してきて、国会議員五十人までが「対馬は韓
国領」と主張し、それを韓国人の半数が支持している
のであるからあきれる。こんな国は「三等国」と言わ
れても仕方がないだろう。
竹島は李承晩が戦後のどさくさの中で勝手に国境線
を定めて自国領と主張しているに過ぎず、まして対馬
は一度も韓国領になった歴史もないのである。なんと
いう図々しい主張であろうか。先に書いた韓国人観光
客の対馬における傍若無人の振る舞いも「本当はオレ
たちの領土なんだが勝手に取っていったお前たちが悪
いんだ」とでも言いたいのかも知れない。だとすれば、
とんでもない話である。日本人は強くその間違いを主
張しないと彼らの言い分に押されて、謝らなければな
らないような、どう考えても理不尽なことになりかね
ない。
韓国側は「竹島だけ」を韓国領と主張するより、「
対馬も」韓国領と主張する方が政治的に有効だという
戦略意図があることを漏らしている。そして「韓国の
対馬」なる歌まで作ってネット上で流し、二十万件以
上のアクセスがあるという。「アーアー、・・いつの
ころからこのつしまをやつらは自分の物にしたのか、
・・いつからつしまとよばれ、侵略者日本の手先にな
ったのか、イスンマン大統領が返せとさけんだ韓国の
つしま・・つしまを返せー、韓国のつしまー♪」
「独島（竹島）」と聞いただけで胸がキュンとして涙
が滲んでしまうような教育を受けている韓国人がこの
歌を聞けば、また愛国心と反日感情をむき出しにして、
「そうだ、対馬を返せ！」とヒステリックに叫び出す
ことは容易に想像できる。日本人が北方領土や竹島、
尖閣諸島にそれくらいの情熱を持って返還を要求すれ
ば今頃全部返ってきていたかもしれない。「竹島の一
つくらい韓国にあげれば」などという冷め切った主張
が新聞投稿に寄せられるくらいであるから、完全に国
家意識では韓国に負けている。このまま放置しておけ
ば、竹島、対馬はおろか、沖縄もそして九州も北海道
も本州までも他国に譲ってしまうだろう。それでも「
別にいいんじゃない」とクールなことを言っているよ
うなら、棲むべき場所を失くして、異国人の奴隷とな
って、チベットやウィグルのように苦しむことになる
だろう。なにしろ、「日本列島は日本人だけのもので
はない」と言って憚らない、エイリアン的風貌の売国
首相をいただいているのであるから、そういう日もそ
う遠くはないかもしれない。
私は全く知らなかった。日本の中にそんな大問題を
抱えた島があるなどとは想像だにしなかった。Ｙ女史
は「私は、一人でも多くの内地の方々に対馬を訪れて
もらいたいです。そして『国境の島』『日韓交流の要
地』であることを体感してもらいたいと切に願ってお
ります」と、末尾にそう書いて訴えた。これが私の愛
国心に火をつけて、「ぜひ行きたい。行かねばならな
い」と固く思わしめた。平成十九年の八月終わりの休
暇を利用して、対馬行を計画した。新幹線で博多まで
名古屋から三時間。博多からジェット・フォイルで一
時間五十分で対馬厳原港に着ける。行程は単純である。
対馬グランドホテルに二泊の予約を入れる。ぜひ執筆
者のＹさんにお会いしてくわしく話を聞きたいと思っ
たので、編集部に電話して連絡先を尋ねると、「こち
らから電話してみて意向を伺ってから折り返しお電話
します」と言った。それはもっともだろう。私は何者
かもわからず、しかも相手は女性であるからである。
するとすぐにＹさんから直接私の携帯に電話が掛かっ
てきた。「喜んでお出迎えします。厳原港ですね。夕
方五時十分着ですね。じゃ、港でお待ちしております」
男性的な声であった。イメージがちょっと違った。ホ
テルまでは遠いので港まで迎えに来てくれて、ホテル
まで送ってくれるという。未知の人間にそこまで親切
にされるとは驚いた。利害は何もない。
博多港からジェット・フォイルで一時間半、ジャン
ボ・ジェット機のエンジンを船に取り付けたという高
速艇は凄まじい音を立てて、船らしからぬ凄まじい速
さで玄界灘を突っ走った。海の苦手な私も爽快だった。
厳原港では約束通り、Ｙ女史と、それから同じように
対馬の行く末を憂えて学習会をしているＮさんが待っ
ていて下さった。Ｙ女史は全く文章からのイメージと
は異なり、体格といい、話し方といい、豪傑女、女傑
というにふさわしい人だった。何か言うたびに「がっ
はははははっ」と笑われる。九州女はこんなものか。
薩摩おごじょ、というのは聞いたことがあるが、Ｙさ
んは小倉の生まれだという。そういえば村田英雄の歌
に「小倉生まれで、玄海育ち、気が荒いが手も早い」
とか言う歌があった。気の弱い男は突き飛ばされるか
もしれない。Ｙ女史の運転する車に乗せられて、道々
「ここが韓国資本に買収された店です」「あそこはい
つも韓国人でいっぱいです」などと説明された。Ｎさ
んは助手席で小さくなっている。陽が沈もうとする頃、
漁火の見える浜に下りて、沖に一斉に閃光を放ってい
るイカ釣りの漁火を見た。沖に光の帯ができる。これ
は壮観で、こんな景色は岐阜では見られない。小柳ル
ミ子が歌った「漁火恋歌」の「あー、沖に揺れている
ー、あー、あの漁火はー」という一節を思い出した。
対馬の危機もしばらく忘れた。これは美しい。これは
ロマンチックである。これを見ただけでも遥々対馬に
来た甲斐があると思った。
こじんまりとした瀟洒な対馬グランドホテルで、両
人と夕食をとりながら、私が何ゆえに対馬に来たか、
そして両人の対馬に対する思い、市会議員に対する働
きかけなどを聞いた。しかし、島の市会議員などはお
よそ国防の意識などなく、せいぜい島の経済活性化し
か頭にない。韓国人がたくさん来て、金を落としてい
けばそれで島は潤っていいのではないかと思っている。
従来から行われていた島最大の祭「厳原港まつり」に
朝鮮通信使の行列のイベントを加え、「対馬アリラン
祭」として韓国観光客に媚を売るような祭に改変して
しまった。当然こういうことには金が動いている。韓
国美人も暗躍して議員たちを篭絡しているということ
も聞いた。金と女で議員たちは骨抜きにされ、国防も
国境の守りの意識もなく、対馬の韓国化に手を貸して
いるような状態である。もちろん全ての議員ではなか
ろう。漁業や林業が振るわず、内地からの観光客もほ
とんど来ない現状では韓国人といえども来てくれれば
歓迎なのであろう。しかし、韓国人たちが対馬を自国
領と主張し、どんどん土地を買い占め、実質的に島を
乗っ取ろうと動き出していることに手を貸していて市
会議員が務まるものか。国境の島の議員であり、日本
の国防の最前線の政治家であるという自覚をもって動
いて貰わなければ困る。
Ｙ女史とＮさんの憂憤の弁は尽きないが、「長旅で
お疲れでしょう」と朝から千キロくらいの旅をして対
馬に辿り着いた私を気遣って頂いた。Ｙ女史はもう一
人の憂国の仲間Ｔ氏が明日一日対馬をご案内する手は
ずになっていると言って下さった。不躾に突然訪れた
旅人をそこまで気遣って配慮してくださるのも人柄と
対馬延いては国への熱情なのであろうと思う。Ｎさん
は私が食事代を持った返礼ということで対馬銘菓「か
すまき」をくださった。私は部屋に帰り、窓からみえ
る沖の漁火に旅情も深めて、大変満ち足りた気分にな
って眠ることができた。
Ｙ女史が、対馬の日の出は素晴らしいと言われたの
で、翌早朝目を覚ますとベランダに出て、眼下に広が
る大海原を見渡したがまだイカ釣りの漁船は漁火を灯
し続けていた。私が寝ている間も一晩中操業を続けて
いたのだ。が、私がベランダに出るとまもなく火は消
えて、漁船は次々に浜に戻り始めた。そして、こんど
は海の一点に溶解したガラス玉のような揺らめく光が
現れたかと思うと見る見る頭をもたげて、眼下の大海
原を金色に染めていった。日の出は岐阜の地元の山頂
からの初日の出と乗鞍岳、奈良の信貴山で拝んだくら
いで数えるほどしか見ていない。こんな荘厳なドラマ
が日々繰り返されているのに、内地の平野で暮らす人
間は多忙を理由に見向きもしないとは一億円をドブに
捨てるにも等しいことだと思った。
対馬滞在二日目はＹ女史の計らいにより、Ｔさんの
車に乗せられて島を案内して貰った。平日であるが悠
々自適の境涯にいらっしゃるＴ氏は気まぐれな島訪問
者に一日お付き合い下さった。これも対馬のため必要
なことと判断されたかもしれない。島のガソリン代は
内地と比べると格段と高い。離島のためだというが一
リットル百六十円くらいする。内地でも昨春異様に値
上がりして一時百八十円くらいまでいったことがあっ
たが、見る見る下がって百円を切るまでになって今は
百二十円くらいである。対馬では百七十円くらいであ
ろう。厳原から北端の比田勝まで九十キロくらいある
が、往復百八十キロを燃費など計算するとそれだけで
四千円近くかかる。お礼しなければならない。
Ｔ氏は学生時代三島由紀夫の「盾の会」にも誘われ
たのであるが、アルバイトが忙しくて入隊せず、それ
があの事件後長く心に引っかかっていたらしいが、後
年元隊員の人物と語ることによってようやく胸のつか
えが取れた、という人である。小説を書いて本を出版
した。島の北端にある日露友好の丘にある、東郷元帥
が、敵将ロジェスト・ウィンスキーを病院に見舞う図
の日本最大級の巨大レリーフの原画は自分がたった十
五分で描いたものだといわれる。ジェット・フォイル
を提案したのもＴ氏で、日本海海戦百周年の記念行事
もＴ氏の奔走によって成功に導かれたのだと聞いた。
八面六臂東奔西走の活躍をされる毎日である。岐阜か
らの来訪者を一日がかりで案内することも引き受けら
れる。今年春に放映された「たけしのＴＶタックル」
スペシャルで対馬が取り上げられ、コメンティターと
して活躍するコラムニスト勝谷誠彦、阿川弘之の娘で
新幹線「のぞみ」の名付け親阿川佐和子が対馬にやっ
てきた時も案内役を務め、テレビ出演を果たされた。
国民情報機関「国民防衛同志会」の創設を企図され、
私に岐阜支部の代表を務めて頂きたいと懇請されたの
で、「いいですよ」と私はあっさりと引き受けた。名
前は立派であるが、実質メンバーは一人か二人という
組織を私は学生時代からたくさん見てきた。この「島
唄Ⅰ」で登場するＫは「学習院大学日本文化研究会」
を創設し、旗や名刺まで作ったのであるが、実質メン
バーも形式メンバーも彼一人だった。詐欺まがいの変
な営利組織ではない。純粋な志から創設された組織な
らかわいい、と言っては失礼であるが、応援したくな
る。
国道３８２号線を北上し、比田勝港近くの日本海海
戦記念碑、鰐浦の韓国展望所（ここから釜山の夜景が
よく見える）、それから南下して島の中央部にあたる、
和多都美神社、ここは満潮になると鳥居が海水に沈み
安芸の宮島を思わせる。海幸彦、山幸彦の伝説が生ま
れたという古い神社である。この辺りはリアス式海岸
になっているため、真珠の養殖に適している。途中、
対州そばをおごって頂き、上見坂公園に行く。展望台
からリアス式海岸の浅茅湾が見下ろせる。また、ここ
には大道砲台跡、兵舎跡がある。いかにも国境の島対
馬らしい。国の守りがいかに重要か、単なる全時代の
遺物ではなく、今に至るも必要なものだという、その
存在の精神を伝えていかなければならない。
対馬藩主宗氏歴代の菩提寺である万松院を訪れる。
ここの入り口で拝観料を取る和服の女性とＴ氏は馴染
みらしく、気安い会話を交していた。Ｙ女史から頂い
た「対馬プレス」というガイド本の表紙に万松院の門
前で客を迎える旅館の女将のような出で立ちでこの女
性が写っている。ここで韓国人の観光客と出くわした。
Ｔ氏は「アンニョンハセヨー」とおもむろに韓国語の
あいさつを投げかけたが、韓国人たちは、当惑してい
るようで、お互いに顔を見合わせ返事をしなかった。
一日ガイドをして頂いたＴ氏には心から感謝してお
礼を渡した。定期観光バスで廻ろうと考えてバス会社
に問い合わせたが四名に満たない場合バスは出さない
が、今のところあなただけなのでバスが出る見込みは
ないという返事だった。もしＴ氏に案内して頂かなか
ったら、ホテル周辺をタクシーで廻るくらいで、島の
北端まではとてもいけなかっただろう。本当にありが
たいことだった。
二日目も充実することができた私は、ゴージャスな
海の珍味にあふれた夕食をとり、イカ釣りの漁火に旅
情を募らせながら、今日一日を振り返り大満足のうち
に眠りに入ることができた。問題を抱えた対馬である
が私の旅行は思い出深い充実したものになった。
三日目はホテルの従業員に厳原港まで送って貰い、
午前七時五五分の早いジェット・フォイルで博多に向
った。
国境の島対馬は歴史的に見ても絶えず他国の侵略の
矢面に立たされてきた。その最たるものは元寇であろ
う。文永十一年（一二七四）十月五日、小茂田の浜に
突然船団四五〇艘、三万の元・高麗軍が姿を現した。
これを迎えたのは宗助国率いるわずかに八十騎の手勢
で、助国は見事に討ち死にし、八十騎は玉砕した。元
軍は島民を虐殺、強姦、略奪ほしいままにして、子供
二百人を奴隷として連れ去り、拉致された島民は手に
穴を空けられ、船に吊るされたという。残った島民は
息を潜めて山中に隠れ、子供が騒ぐと居場所がわかる
ので、騒ぐ子供を殺したというから悲惨だった。しか
し、討ち死にした助国とその手勢はおそらく日本のた
めに人柱となって、風を呼び、嵐を起こし、荒れ狂う
護国の鬼と身を変じて、元・高麗軍を疾風怒濤の荒海
の中に沈めて日本の国を守ったのであろう。
そして歴史は下り、幕末、ロシアが戦略的な要とし
てこの島に目をつけ、文久元年（一八六一）二月から
八月にかけて、「イギリスの侵略から島を守るため」
という名目で、勝手放題な振る舞いをして、測量、建
物の建築、作物、牛の掠奪、農民への発砲、殺傷、藩
士の拉致、城や要塞への威嚇砲撃などした。この時幕
府も藩も有効な手を打つことができず、そのまま行け
ば対馬はロシアに占領されるところだったのを、同じ
く対馬に目を付けていたイギリスが軍艦二隻を急行さ
せ、ロシアを非難して圧力をかけ続け、ついにロシア
を対馬から追い出すことができた。しかし、外国の力
を借りて、外国の侵略を防ぐとは危険きわまりないこ
とである。今度はイギリスが対馬を侵すかもしれない。
この事態を重く見たのが、対馬から一番近い長州藩の
若きリーダー、吉田松陰門下の、高杉晋作と並んで双
璧と言われた久坂玄瑞だった。久坂は攘夷実行を固く
心に誓い、外国勢力に舐められない日本人の意地を見
せつけようと攘夷を決行した。そのため、長州藩は四
国連合艦隊から砲撃を受けるという憂き目に遭うが、
明治になって条約改正を成し遂げ、日清、日露の両戦
役に勝利する、その素地がこのとき形成されたといっ
ていい。
そして、平成の今、対馬は人口の激減、産業の衰退、
韓国人による島の侵食という危機に晒されている。し
かもこの秋に発足した民主党政権は、外国人の地方参
政権法案を通過させるつもりである。韓国人がさらに
大量に対馬になだれ込み、参政権を得て、在日の首長
を誕生させ、対馬の韓国への帰属を宣言したらどうな
るのか。対馬は韓国領となってしまう。そんなバカな
と思うが、現に韓国資本の土地買収は進んでおり、「
韓国の対馬」を韓国人の半数が支持し、国会議員の五
十人が主張している。竹島だけでなく、対馬も韓国と
主張したほうが有利だとして戦略的に運動を進めてい
るという現実がある。
ここで、現代の久坂玄瑞が現れて形勢を逆転しなけ
ればならない。現代的な「攘夷」を決行しなければな
らない。島を思う心ある人たちの間で言われているの
は、「国境対馬振興特別措置法（防人の島新法）」の
制定で、これによって土地の買収、不動産取引の制限、
ある一定の目的をもった外国人の入域、入島を禁止す
る。現行法でも取り締まれる密漁の禁止をする。こう
いったことを厳格に、毅然と行なっていくことである。
今の状態ではナメられ放題、好き放題にされて、父祖
が血と涙で切り拓き、守ってきた祖国の一部が、エイ
リアンに侵食され、完全に喰われてしまうことになる。
韓国人の中にも、呉善花（オ・ソン・ファ）や金完
燮（キム・ワンソプ）などまともな知識人のいること
を私は知っている。私は小悪魔的な韓国女優チョン・
ジヒョンのファンである。在日の金山君とは中学時代
仲良くしていた。大学院で同じ日本文学の授業をとっ
た高麗大学から留学している韓国の女子学生は教室で
二人きりになったとき、たどたどしい日本語で私に話
しかけてきた。自己紹介をして、自分の名前と大学名
を読んでいた本に漢字で書いて示し、「あなたは」と、
純粋な目で私を見つめた。韓国など全く興味のなかっ
た私はいいかげんな対応しかできず、彼女はたぶんが
っかりして、それきりになったが、あの時もっと深く
話して親密になっていれば韓国女性を知り、国際理解
が進むチャンスだったかもしれない。大変惜しいこと
をしたと思っている。色の白い、清楚な、美しい娘だ
った。おそらく学業成績も優秀な娘だったのだろう。
韓国を悪く言うばかりでは何も始まらない。韓国に
も理性ある人は確実にいる。理性をもって話し合い、
普通の国際感覚をもって、正しいことは堂々と主張し
ていかなければならない。謝罪したり譲るばかりが友
好ではない。確かに対馬は日本の領土である。竹島も
日本の領土である。しっかりと主張して、理性をもっ
て話し合い、隣国として真の友好関係を持たなければ
ならないと思う。
（平成二一年十一月二三日新嘗祭）
次回「沖縄」
島 唄 Ⅲ
大堀敏靖
対 馬
この島は「つしま」と読むが「島」の字を使わない。
対馬海流を覚えさせられるので読み方は知っているが、
対の馬と書く。一つにつながっているが二頭の馬が駆
けているような形をしている。長崎県に属することも
意外なことである。福岡の方が近い。現に私は福岡博
多からジェット・フォイルに乗って対馬の厳原（いず
はら）港に着いた。さらに言えば韓国の方がもっと近
い。韓国までの最短距離は四九・五キロ、福岡までは
一三八キロある。島から釜山の夜景が見える。
「韓国寄り」といってもいい島であるが、古事記に
はイザナギ、イザナミの「神生み国生み」の場面に淡
路島、佐渡島、隠岐、壱岐の島々とともに神の命を頂
いた島として「津嶋」の名が出てくる。これは古代か
ら明らかに日本の島として認識されていたわけである。
沖縄本島、佐渡島、奄美大島についでわが国四番目の
広さを持つ。
しかし、この島を訪れるなどとは夢にも思わなかっ
た。大した観光資源もない。知人がいるわけでもない。
私には馴染みのない島で、意識に上ることもなかった。
しかし、たまたまある雑誌に掲載された対馬在住のＹ
さんという女性のせつせつと対馬の驚くべき現状を訴
えるレポートに「行ってみたい」という気持ちになっ
た。人を動かす文章の力は侮れない。さらに言えば、
文章を通して現れる愛である。これが人を覚醒させる。
何に対する愛かと言えば、島に対する愛、愛島心であ
るが、対馬は国境の島であり、それは必然愛国心につ
ながってくる。
対馬の産業は主に漁業と林業であるが、これが振る
わない。真珠の養殖が盛んであったが、「世界の女性
の首を真珠で飾る」と言った御木本幸吉翁の三重の英
虞湾ほどではない。国内の最先端真珠養殖技術より十
五年遅れていると言われ、競争力も後継者も失いつつ
ある。林業も杉や檜を植林しているが、若い後継者が
いないうえ、人件費や内地への輸送費を考えると採算
が合わない。
島民人口は減少の一途をたどっている。かつて（昭
和三、四十年代）は七万人の島民がいた。しかし、そ
の後特に若者の島流出が激しく、平成十九年には三万
八千百九十七人、毎年五百人ずつ減りつつあったが、
平成二十年には一気に千人減って三万七千人になり、
最新の情報（平成二一年十月）では三万六千二百二十
人である。単純計算をすれば平成五七年（二〇四六）
島の人口はゼロになり、無人島になる。高齢化も進ん
でおり、六十五歳以上の老人の比率は全国平均の十七
％をかなり上回る二二％である。高校はあるが大学は
ないため若者は島を出て、そのまま内地に就職して島
に帰ってこない。それで老人ばかりが増える。産業は
ますます振るわない。観光はというと、神島と同じく
これといったものはない。歴史の好きな人間か、釣り
客しかこない。博多から高速艇のジェット・フォイル
でも二時間近くかかり、料金は往復一万五千円である
それだけの時間と金をかけてでも行きたい島かという
とそんな人は私のような特殊な人間くらいである。対
馬に熱い目を向ける人など周りにはいない。
ところが、こういう島に熱い視線を注ぐエイリアン
がいたのである。それは先にも書いた内地より近い大
韓民国人である。もともと対馬は韓国との貿易で成り
立ってきた。朝鮮通信使もやってきた友好の歴史もあ
る。対馬市は産業建て直しに韓国人観光客の誘致を思
いつき、積極的に進めてきた。平成十年には年間四百
五十人しかこなかった韓国人観光客が、十七年には四
千二百人、十九年には一挙に増えて六万五千人、二十
年は七万八千人と増え続け、再来年までには十万人を
めざしているという。ノービザ、ジェット・フォイル
で釜山から一時間、しかもどこからか援助が出て、千
円くらいで来られる。博多からだと倍の時間がかかり、
その八倍の費用がかかるのにである。島の人口の倍の
エイリアンが対馬にやってくる。
そうやって対馬にやってくる人々がマナーの正しい
紳士淑女なら歓迎もできよう。しかるに彼らは、もち
ろん全てではなかろうが、狼藉に近いことをやる。観
光客の三割は釣り客であるが、外国人には禁じられて
いる撒き餌をやる。餌を撒いて魚をおびき寄せ、たく
さん釣ろうとする。そのため漁場が荒れ放題になる。
アワビ、サザエの密猟をやる。「プロ釣り客」が大量
に魚を持ち帰るため地元漁業は深刻なダメージを受け
ている。タクシーに乗っても降りるときお金を払わず
逃げていく。払ったと思ったら五百円玉そっくりの五
百ウォン（十分の一の価値）を混ぜてごまかす。五・
六人でコンビニに入り、一人が支払いをしている隙に
他のものは万引きをする。女性は陳列棚の口紅をその
場で使って元に戻す。スーパーでは支払いも済ませて
いないのにバナナを食べてしまう。飲食店に入っても
キムチや韓国酒など持ち込みをして、ほとんど注文せ
ず騒いでいる。旅館では湯船の中で身体を洗い、シャ
ンプーやリンスなどの備品を持ち去ってしまう。彼ら
が使った部屋は何をするのか異様な臭いが染み付いて
後の客は使えなくなる。その他道いっぱいに広がって
歩く、神社の鳥居の上に石を投げる、など地元の人が
韓国人の悪口を言い出したら止まらない。あまりにひ
どいので言って聞かせたところ少しは改善が見られた
らしいが日本の他の都市、例えば東京などにも観光に
来る韓国人は多いはずだが、そのような乱暴狼藉の話
はあまり聞かない。そうすると何か意図的に嫌がらせ
のようにやっている節がある。
そして、さらに憂うべき深刻な事実がある。以上の
ような事情から経営の厳しくなった旅館、店、会社、
年寄りばかりになって持て余した土地などを生活に困
窮した島民が韓国資本にどんどん売却しているという
のである。つまり韓国資本が進出して対馬に来る韓国
人をターゲットに韓国料理店、釣り民宿、ホテル、バ
ス会社などを経営し始めているのだ。島の真ん中辺り
に位置する海上自衛隊対馬防備隊本部は国境の守りに
とって重要な施設であるが、ここに隣接する真珠工場
は経営危機に陥り、土地を手放さざるを得なくなった。
平成二年には天皇皇后両陛下がお出でになり、「行幸
啓記念碑」も敷地内にある工場である。工場主は決し
て韓国人には売るつもりはなかったのだが、日本人が
「名義貸し」をして韓国人の手に渡ってしまった。「
名義貸し」をした日本人は文字通り売国奴（売国土）
といっていいのだが、国防の意識も国境の守りの認識
なんてものもさらさらなくて、ただ金儲けしか頭にな
かった人間だろう。そういう人間の方が今の日本では
むしろ普通なのだろうが。
そしてさらに憂慮すべきことは、韓国が意図を持っ
て対馬を自分たちのものにしてしまおうとしているこ
とである。韓国の馬山市では「対馬の日」なるものが
平成十七年に制定された。これは島根県が同年二月に
「竹島の日」を制定したことに対抗するもののようで
あるが、ほとんど無人島である竹島のような孤島に対
抗して、わが国四番目の大島を自己の領土と言って決
議してしまうその破廉恥さに韓国民族の民度の低さを
見る。竹島の近くにある鬱陵島には「対馬島本是我國
之地」（対馬は元々韓国の地）と書かれた石碑が建っ
ている。この島には独島（竹島）博物館があり、たく
さんの家族連れが訪れ愛国心高揚のメッカとなってい
るという。訪れた韓国人家族は「ああ、対馬も元は韓
国のものだったのか。日本人は全くひどいことをする」
と認識することになるだろう。
彼らが対馬を自国領とする根拠は応永の外冦（一四
一九年）で倭寇の討伐を名目に対馬に攻め入ったとき
に李氏朝鮮で権力を握っていた太宗が「古書に対馬は
慶尚道に隷属するとある」と言ったことに基づく。こ
れは戦意高揚のために出任せに言ったことである。そ
して近年では李承晩大統領が「対馬は韓国領」と主張
した。しかしこれは根拠がないという理由でアメリカ
に一蹴されている。こういう出任せのいい加減な歴史
を持ち出してきて、国会議員五十人までが「対馬は韓
国領」と主張し、それを韓国人の半数が支持している
のであるからあきれる。こんな国は「三等国」と言わ
れても仕方がないだろう。
竹島は李承晩が戦後のどさくさの中で勝手に国境線
を定めて自国領と主張しているに過ぎず、まして対馬
は一度も韓国領になった歴史もないのである。なんと
いう図々しい主張であろうか。先に書いた韓国人観光
客の対馬における傍若無人の振る舞いも「本当はオレ
たちの領土なんだが勝手に取っていったお前たちが悪
いんだ」とでも言いたいのかも知れない。だとすれば、
とんでもない話である。日本人は強くその間違いを主
張しないと彼らの言い分に押されて、謝らなければな
らないような、どう考えても理不尽なことになりかね
ない。
韓国側は「竹島だけ」を韓国領と主張するより、「
対馬も」韓国領と主張する方が政治的に有効だという
戦略意図があることを漏らしている。そして「韓国の
対馬」なる歌まで作ってネット上で流し、二十万件以
上のアクセスがあるという。「アーアー、・・いつの
ころからこのつしまをやつらは自分の物にしたのか、
・・いつからつしまとよばれ、侵略者日本の手先にな
ったのか、イスンマン大統領が返せとさけんだ韓国の
つしま・・つしまを返せー、韓国のつしまー♪」
「独島（竹島）」と聞いただけで胸がキュンとして涙
が滲んでしまうような教育を受けている韓国人がこの
歌を聞けば、また愛国心と反日感情をむき出しにして、
「そうだ、対馬を返せ！」とヒステリックに叫び出す
ことは容易に想像できる。日本人が北方領土や竹島、
尖閣諸島にそれくらいの情熱を持って返還を要求すれ
ば今頃全部返ってきていたかもしれない。「竹島の一
つくらい韓国にあげれば」などという冷め切った主張
が新聞投稿に寄せられるくらいであるから、完全に国
家意識では韓国に負けている。このまま放置しておけ
ば、竹島、対馬はおろか、沖縄もそして九州も北海道
も本州までも他国に譲ってしまうだろう。それでも「
別にいいんじゃない」とクールなことを言っているよ
うなら、棲むべき場所を失くして、異国人の奴隷とな
って、チベットやウィグルのように苦しむことになる
だろう。なにしろ、「日本列島は日本人だけのもので
はない」と言って憚らない、エイリアン的風貌の売国
首相をいただいているのであるから、そういう日もそ
う遠くはないかもしれない。
私は全く知らなかった。日本の中にそんな大問題を
抱えた島があるなどとは想像だにしなかった。Ｙ女史
は「私は、一人でも多くの内地の方々に対馬を訪れて
もらいたいです。そして『国境の島』『日韓交流の要
地』であることを体感してもらいたいと切に願ってお
ります」と、末尾にそう書いて訴えた。これが私の愛
国心に火をつけて、「ぜひ行きたい。行かねばならな
い」と固く思わしめた。平成十九年の八月終わりの休
暇を利用して、対馬行を計画した。新幹線で博多まで
名古屋から三時間。博多からジェット・フォイルで一
時間五十分で対馬厳原港に着ける。行程は単純である。
対馬グランドホテルに二泊の予約を入れる。ぜひ執筆
者のＹさんにお会いしてくわしく話を聞きたいと思っ
たので、編集部に電話して連絡先を尋ねると、「こち
らから電話してみて意向を伺ってから折り返しお電話
します」と言った。それはもっともだろう。私は何者
かもわからず、しかも相手は女性であるからである。
するとすぐにＹさんから直接私の携帯に電話が掛かっ
てきた。「喜んでお出迎えします。厳原港ですね。夕
方五時十分着ですね。じゃ、港でお待ちしております」
男性的な声であった。イメージがちょっと違った。ホ
テルまでは遠いので港まで迎えに来てくれて、ホテル
まで送ってくれるという。未知の人間にそこまで親切
にされるとは驚いた。利害は何もない。
博多港からジェット・フォイルで一時間半、ジャン
ボ・ジェット機のエンジンを船に取り付けたという高
速艇は凄まじい音を立てて、船らしからぬ凄まじい速
さで玄界灘を突っ走った。海の苦手な私も爽快だった。
厳原港では約束通り、Ｙ女史と、それから同じように
対馬の行く末を憂えて学習会をしているＮさんが待っ
ていて下さった。Ｙ女史は全く文章からのイメージと
は異なり、体格といい、話し方といい、豪傑女、女傑
というにふさわしい人だった。何か言うたびに「がっ
はははははっ」と笑われる。九州女はこんなものか。
薩摩おごじょ、というのは聞いたことがあるが、Ｙさ
んは小倉の生まれだという。そういえば村田英雄の歌
に「小倉生まれで、玄海育ち、気が荒いが手も早い」
とか言う歌があった。気の弱い男は突き飛ばされるか
もしれない。Ｙ女史の運転する車に乗せられて、道々
「ここが韓国資本に買収された店です」「あそこはい
つも韓国人でいっぱいです」などと説明された。Ｎさ
んは助手席で小さくなっている。陽が沈もうとする頃、
漁火の見える浜に下りて、沖に一斉に閃光を放ってい
るイカ釣りの漁火を見た。沖に光の帯ができる。これ
は壮観で、こんな景色は岐阜では見られない。小柳ル
ミ子が歌った「漁火恋歌」の「あー、沖に揺れている
ー、あー、あの漁火はー」という一節を思い出した。
対馬の危機もしばらく忘れた。これは美しい。これは
ロマンチックである。これを見ただけでも遥々対馬に
来た甲斐があると思った。
こじんまりとした瀟洒な対馬グランドホテルで、両
人と夕食をとりながら、私が何ゆえに対馬に来たか、
そして両人の対馬に対する思い、市会議員に対する働
きかけなどを聞いた。しかし、島の市会議員などはお
よそ国防の意識などなく、せいぜい島の経済活性化し
か頭にない。韓国人がたくさん来て、金を落としてい
けばそれで島は潤っていいのではないかと思っている。
従来から行われていた島最大の祭「厳原港まつり」に
朝鮮通信使の行列のイベントを加え、「対馬アリラン
祭」として韓国観光客に媚を売るような祭に改変して
しまった。当然こういうことには金が動いている。韓
国美人も暗躍して議員たちを篭絡しているということ
も聞いた。金と女で議員たちは骨抜きにされ、国防も
国境の守りの意識もなく、対馬の韓国化に手を貸して
いるような状態である。もちろん全ての議員ではなか
ろう。漁業や林業が振るわず、内地からの観光客もほ
とんど来ない現状では韓国人といえども来てくれれば
歓迎なのであろう。しかし、韓国人たちが対馬を自国
領と主張し、どんどん土地を買い占め、実質的に島を
乗っ取ろうと動き出していることに手を貸していて市
会議員が務まるものか。国境の島の議員であり、日本
の国防の最前線の政治家であるという自覚をもって動
いて貰わなければ困る。
Ｙ女史とＮさんの憂憤の弁は尽きないが、「長旅で
お疲れでしょう」と朝から千キロくらいの旅をして対
馬に辿り着いた私を気遣って頂いた。Ｙ女史はもう一
人の憂国の仲間Ｔ氏が明日一日対馬をご案内する手は
ずになっていると言って下さった。不躾に突然訪れた
旅人をそこまで気遣って配慮してくださるのも人柄と
対馬延いては国への熱情なのであろうと思う。Ｎさん
は私が食事代を持った返礼ということで対馬銘菓「か
すまき」をくださった。私は部屋に帰り、窓からみえ
る沖の漁火に旅情も深めて、大変満ち足りた気分にな
って眠ることができた。
Ｙ女史が、対馬の日の出は素晴らしいと言われたの
で、翌早朝目を覚ますとベランダに出て、眼下に広が
る大海原を見渡したがまだイカ釣りの漁船は漁火を灯
し続けていた。私が寝ている間も一晩中操業を続けて
いたのだ。が、私がベランダに出るとまもなく火は消
えて、漁船は次々に浜に戻り始めた。そして、こんど
は海の一点に溶解したガラス玉のような揺らめく光が
現れたかと思うと見る見る頭をもたげて、眼下の大海
原を金色に染めていった。日の出は岐阜の地元の山頂
からの初日の出と乗鞍岳、奈良の信貴山で拝んだくら
いで数えるほどしか見ていない。こんな荘厳なドラマ
が日々繰り返されているのに、内地の平野で暮らす人
間は多忙を理由に見向きもしないとは一億円をドブに
捨てるにも等しいことだと思った。
対馬滞在二日目はＹ女史の計らいにより、Ｔさんの
車に乗せられて島を案内して貰った。平日であるが悠
々自適の境涯にいらっしゃるＴ氏は気まぐれな島訪問
者に一日お付き合い下さった。これも対馬のため必要
なことと判断されたかもしれない。島のガソリン代は
内地と比べると格段と高い。離島のためだというが一
リットル百六十円くらいする。内地でも昨春異様に値
上がりして一時百八十円くらいまでいったことがあっ
たが、見る見る下がって百円を切るまでになって今は
百二十円くらいである。対馬では百七十円くらいであ
ろう。厳原から北端の比田勝まで九十キロくらいある
が、往復百八十キロを燃費など計算するとそれだけで
四千円近くかかる。お礼しなければならない。
Ｔ氏は学生時代三島由紀夫の「盾の会」にも誘われ
たのであるが、アルバイトが忙しくて入隊せず、それ
があの事件後長く心に引っかかっていたらしいが、後
年元隊員の人物と語ることによってようやく胸のつか
えが取れた、という人である。小説を書いて本を出版
した。島の北端にある日露友好の丘にある、東郷元帥
が、敵将ロジェスト・ウィンスキーを病院に見舞う図
の日本最大級の巨大レリーフの原画は自分がたった十
五分で描いたものだといわれる。ジェット・フォイル
を提案したのもＴ氏で、日本海海戦百周年の記念行事
もＴ氏の奔走によって成功に導かれたのだと聞いた。
八面六臂東奔西走の活躍をされる毎日である。岐阜か
らの来訪者を一日がかりで案内することも引き受けら
れる。今年春に放映された「たけしのＴＶタックル」
スペシャルで対馬が取り上げられ、コメンティターと
して活躍するコラムニスト勝谷誠彦、阿川弘之の娘で
新幹線「のぞみ」の名付け親阿川佐和子が対馬にやっ
てきた時も案内役を務め、テレビ出演を果たされた。
国民情報機関「国民防衛同志会」の創設を企図され、
私に岐阜支部の代表を務めて頂きたいと懇請されたの
で、「いいですよ」と私はあっさりと引き受けた。名
前は立派であるが、実質メンバーは一人か二人という
組織を私は学生時代からたくさん見てきた。この「島
唄Ⅰ」で登場するＫは「学習院大学日本文化研究会」
を創設し、旗や名刺まで作ったのであるが、実質メン
バーも形式メンバーも彼一人だった。詐欺まがいの変
な営利組織ではない。純粋な志から創設された組織な
らかわいい、と言っては失礼であるが、応援したくな
る。
国道３８２号線を北上し、比田勝港近くの日本海海
戦記念碑、鰐浦の韓国展望所（ここから釜山の夜景が
よく見える）、それから南下して島の中央部にあたる、
和多都美神社、ここは満潮になると鳥居が海水に沈み
安芸の宮島を思わせる。海幸彦、山幸彦の伝説が生ま
れたという古い神社である。この辺りはリアス式海岸
になっているため、真珠の養殖に適している。途中、
対州そばをおごって頂き、上見坂公園に行く。展望台
からリアス式海岸の浅茅湾が見下ろせる。また、ここ
には大道砲台跡、兵舎跡がある。いかにも国境の島対
馬らしい。国の守りがいかに重要か、単なる全時代の
遺物ではなく、今に至るも必要なものだという、その
存在の精神を伝えていかなければならない。
対馬藩主宗氏歴代の菩提寺である万松院を訪れる。
ここの入り口で拝観料を取る和服の女性とＴ氏は馴染
みらしく、気安い会話を交していた。Ｙ女史から頂い
た「対馬プレス」というガイド本の表紙に万松院の門
前で客を迎える旅館の女将のような出で立ちでこの女
性が写っている。ここで韓国人の観光客と出くわした。
Ｔ氏は「アンニョンハセヨー」とおもむろに韓国語の
あいさつを投げかけたが、韓国人たちは、当惑してい
るようで、お互いに顔を見合わせ返事をしなかった。
一日ガイドをして頂いたＴ氏には心から感謝してお
礼を渡した。定期観光バスで廻ろうと考えてバス会社
に問い合わせたが四名に満たない場合バスは出さない
が、今のところあなただけなのでバスが出る見込みは
ないという返事だった。もしＴ氏に案内して頂かなか
ったら、ホテル周辺をタクシーで廻るくらいで、島の
北端まではとてもいけなかっただろう。本当にありが
たいことだった。
二日目も充実することができた私は、ゴージャスな
海の珍味にあふれた夕食をとり、イカ釣りの漁火に旅
情を募らせながら、今日一日を振り返り大満足のうち
に眠りに入ることができた。問題を抱えた対馬である
が私の旅行は思い出深い充実したものになった。
三日目はホテルの従業員に厳原港まで送って貰い、
午前七時五五分の早いジェット・フォイルで博多に向
った。
国境の島対馬は歴史的に見ても絶えず他国の侵略の
矢面に立たされてきた。その最たるものは元寇であろ
う。文永十一年（一二七四）十月五日、小茂田の浜に
突然船団四五〇艘、三万の元・高麗軍が姿を現した。
これを迎えたのは宗助国率いるわずかに八十騎の手勢
で、助国は見事に討ち死にし、八十騎は玉砕した。元
軍は島民を虐殺、強姦、略奪ほしいままにして、子供
二百人を奴隷として連れ去り、拉致された島民は手に
穴を空けられ、船に吊るされたという。残った島民は
息を潜めて山中に隠れ、子供が騒ぐと居場所がわかる
ので、騒ぐ子供を殺したというから悲惨だった。しか
し、討ち死にした助国とその手勢はおそらく日本のた
めに人柱となって、風を呼び、嵐を起こし、荒れ狂う
護国の鬼と身を変じて、元・高麗軍を疾風怒濤の荒海
の中に沈めて日本の国を守ったのであろう。
そして歴史は下り、幕末、ロシアが戦略的な要とし
てこの島に目をつけ、文久元年（一八六一）二月から
八月にかけて、「イギリスの侵略から島を守るため」
という名目で、勝手放題な振る舞いをして、測量、建
物の建築、作物、牛の掠奪、農民への発砲、殺傷、藩
士の拉致、城や要塞への威嚇砲撃などした。この時幕
府も藩も有効な手を打つことができず、そのまま行け
ば対馬はロシアに占領されるところだったのを、同じ
く対馬に目を付けていたイギリスが軍艦二隻を急行さ
せ、ロシアを非難して圧力をかけ続け、ついにロシア
を対馬から追い出すことができた。しかし、外国の力
を借りて、外国の侵略を防ぐとは危険きわまりないこ
とである。今度はイギリスが対馬を侵すかもしれない。
この事態を重く見たのが、対馬から一番近い長州藩の
若きリーダー、吉田松陰門下の、高杉晋作と並んで双
璧と言われた久坂玄瑞だった。久坂は攘夷実行を固く
心に誓い、外国勢力に舐められない日本人の意地を見
せつけようと攘夷を決行した。そのため、長州藩は四
国連合艦隊から砲撃を受けるという憂き目に遭うが、
明治になって条約改正を成し遂げ、日清、日露の両戦
役に勝利する、その素地がこのとき形成されたといっ
ていい。
そして、平成の今、対馬は人口の激減、産業の衰退、
韓国人による島の侵食という危機に晒されている。し
かもこの秋に発足した民主党政権は、外国人の地方参
政権法案を通過させるつもりである。韓国人がさらに
大量に対馬になだれ込み、参政権を得て、在日の首長
を誕生させ、対馬の韓国への帰属を宣言したらどうな
るのか。対馬は韓国領となってしまう。そんなバカな
と思うが、現に韓国資本の土地買収は進んでおり、「
韓国の対馬」を韓国人の半数が支持し、国会議員の五
十人が主張している。竹島だけでなく、対馬も韓国と
主張したほうが有利だとして戦略的に運動を進めてい
るという現実がある。
ここで、現代の久坂玄瑞が現れて形勢を逆転しなけ
ればならない。現代的な「攘夷」を決行しなければな
らない。島を思う心ある人たちの間で言われているの
は、「国境対馬振興特別措置法（防人の島新法）」の
制定で、これによって土地の買収、不動産取引の制限、
ある一定の目的をもった外国人の入域、入島を禁止す
る。現行法でも取り締まれる密漁の禁止をする。こう
いったことを厳格に、毅然と行なっていくことである。
今の状態ではナメられ放題、好き放題にされて、父祖
が血と涙で切り拓き、守ってきた祖国の一部が、エイ
リアンに侵食され、完全に喰われてしまうことになる。
韓国人の中にも、呉善花（オ・ソン・ファ）や金完
燮（キム・ワンソプ）などまともな知識人のいること
を私は知っている。私は小悪魔的な韓国女優チョン・
ジヒョンのファンである。在日の金山君とは中学時代
仲良くしていた。大学院で同じ日本文学の授業をとっ
た高麗大学から留学している韓国の女子学生は教室で
二人きりになったとき、たどたどしい日本語で私に話
しかけてきた。自己紹介をして、自分の名前と大学名
を読んでいた本に漢字で書いて示し、「あなたは」と、
純粋な目で私を見つめた。韓国など全く興味のなかっ
た私はいいかげんな対応しかできず、彼女はたぶんが
っかりして、それきりになったが、あの時もっと深く
話して親密になっていれば韓国女性を知り、国際理解
が進むチャンスだったかもしれない。大変惜しいこと
をしたと思っている。色の白い、清楚な、美しい娘だ
った。おそらく学業成績も優秀な娘だったのだろう。
韓国を悪く言うばかりでは何も始まらない。韓国に
も理性ある人は確実にいる。理性をもって話し合い、
普通の国際感覚をもって、正しいことは堂々と主張し
ていかなければならない。謝罪したり譲るばかりが友
好ではない。確かに対馬は日本の領土である。竹島も
日本の領土である。しっかりと主張して、理性をもっ
て話し合い、隣国として真の友好関係を持たなければ
ならないと思う。
（平成二一年十一月二三日新嘗祭）
次回「沖縄」
月刊ＷＥＢ風 ０９年１１月号 通巻第８号
［原稿用紙３０枚］
